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未来はキミドリイロ

サイコメトリックアイドルを目指す心理学徒の勉強部屋です。勉強・趣味などについて書いています。

【書評】清水裕士(2014). 個人と集団のマルチレベル分析.

個人と集団のマルチレベル分析

個人と集団のマルチレベル分析

昨年出たばかりの階層水玉本こと,清水先生のマルチレベル本です。
以下のような章立てとなっています。

第1章 マルチレベルモデルとは何か:データの階層性とマルチレベルモデル
第2章 階層線形モデリング:理論編
第3章 階層線形モデリングの実践:HLM7による分析
第4章 階層線形モデリングの実践2:HADによる分析
第5章 階層線形モデリングの実践3:SPSS,R,SASによるHLMの分析
第6章 マルチレベル構造方程式モデル:理論編
第7章 マルチレベル構造方程式モデリングの実際:Mplusによる分析
第8章 マルチレベル構造方程式モデリングの実際2:HADによる分析
第9章 ペアデータの相互依存性の分析

見てわかる通り第3章,第4章,第5章,第7章,第8章はソフトウェアで実際に分析するには,といった内容に割かれています。
マルチレベルデータやその分析手法については第1章,第2章,第6章,第9章を読めばよいということになります。

内容に数学的な記述はほとんどなく,その代わりに図と丁寧な説明でマルチレベルデータとは何か,普通の分析手法を適用してしまうとどのような問題点があるのか,それを解決するためにどのように分析していくのかについてわかりやすく書かれており,マルチレベルデータ分析の入門書として非常に良書であると思います。
また,マルチレベルデータの分析で行われる変数のセンタリングについてもその必要性がわかりやすく述べられている点はうれしかったです。

予備知識としては,相関・回帰といった心理統計の基礎知識に合わせて分散分析(ANOVA)についての理解があると滞りなく読めると思います。
構造方程式モデリング(共分散構造分析,SEM)については,第6章前半で簡単な説明があるのでおそらく予備知識がなくても問題はないかと。

水玉本の特徴として,多くの分析ソフトウェアでのマルチレベルデータ分析について触れていることが挙げられます。
サンプルデータも入手できるため,HLM7,SPSS,R,SAS,Mplusといった市販/フリーソフトに加えて筆者である清水先生が作成したHADというソフトの計6種類もの分析環境に対応していることから,初学者においても手を動かしながら学べる(重要!)というユーザーフレンドリーな一冊となっています。

個人的に統計の勉強において手を動かすことや,手法を適用するデータセットを知り,イメージができるようになるということは誤用を防ぎ,手法を真に活用するためには大変重要なことだと思っています。
理論的な面をしっかり学びたい学習者には物足りないようにも思いますが,そうした人にとってもスキーマをつくるためのとっかかりとしてリラックスしながら読めるのでお勧めできます。

個人的には,ペアデータの相互依存性をマルチレベルデータから考えられるという発想がなかったので第9章が興味深かったです。
心理学ではグループ実験のようなことは頻繁に行いますから,これからの時代はマルチレベルモデリングを適用する場面もきっと増えていくことでしょうね。
集団と個人の効果が混在しているというのは1集団のサンプルサイズがクラス単位のように40前後と多くはならない教育心理学などの分野ではクリティカルな問題になりかねないので,混合された効果を分離するという発想はごく自然かつ重要かと思います。


以下,僭越ながら気づいた点を箇条書きにしていきます。

  • 級内相関係数のやや丁寧な式展開は第6章にあります。第1章で,ん?と思って頭を頭を抱えた人は第6章前半に飛ぶと良いと思います。
  • 回帰分析が変数間の因果関係を推定する方法,というワーディングが,私の好みの問題ではあるのですけれど気になりました。因果関係は理論的検討やリサーチデザインを経て研究者が努力してデータからの推論により明らかにするものであり,統計解析が=因果関係というわけではありません。この表現だと適当なデータに回帰分析をかければ,それで目的変数と説明変数として突っ込んだもの同士の因果関係が明らかになったという誤用や誤解を招きかねません。清水先生もその点は当然認識されたうえでそれを大前提としてこの本を書かれたのだと思いますし,因果関係の話にまで踏み込むと話がそれてしまうかとは思いますが,広く読まれそうなこうした本での言葉遣いは大事だと思いました。